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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

七

母の皮肉な逆な態度が、どんなに青年の心を虐げているかが、美奈子にもよく判った。美奈子は、もう一度、青年を救ってやりたいと思った。

「妾やっぱり、図書室へ参りますわ。今日急に、お関所の歴史が知りたくなりましたの。」

七

「お関所の歴史なんか、今夜じゃなくてもいゝじゃないの。」

瑠璃子は、美奈子が、再度図書室へ行こうと云うのを聴くと、少しじれたように、そう云った。

「何うして妾と一緒に行くのが、お嫌いなの。美奈さんも、青木さんも、今夜に限って何うしてそんなに煮え切らないの。」

瑠璃子は、青年の火のような憤怒も、美奈子の苦衷も、何も分らないように、平然と云った。

「ねえ! 美奈さん、お願いだから行って下さいね。貴女が、行きたがらないものだから、青木さんまでが、出渋るのですわ。ねえ! そうでしょう、青木さん!」

弱い兎を、苛責める牝豹か何かのように、瑠璃子は何処までも、皮肉に逆に逆に出るのであった。美奈子は、青年の顔を見るのに堪えなかった。青年がどんなに怒っているか、また美奈子がいるために、その怒を少しも洩すことが出来ない苦しさを察すると、美奈子は気の毒で、顔を背けずにはいられなかった。