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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
四
塩町行の電車の昇降台の棒に、美奈子が手をかけたとき、彼女は低く、
「あゝそう/\!」と、自分自身に言った。
彼女は、やっと妹を思い出した。お茶の水で確か三年か二年か下の級にいた人だ。そう/\! 先刻見たときバンドをしていたのをスッカリ忘れていた。向うでは此方の顔丈を覚えていて呉れたのだ。そう思うと、美奈子は兄妹に対して一入なつかしい心が湧いて来た。
四
少女の顔丈は、やっと思い出したけれども、名前は何うしても思い出せなかった。家へ帰ってからも、美奈子は、お茶の水にいた頃の校友会雑誌の『校報』などを拡げて、それらしい名前を、思い出そうとしたけれども、やっぱり徒爾だった。
自分ながら、何うしてあの兄妹に、不思議に心を惹かされるのか、美奈子には分らなかった。が、兄の方の白い横顔や、妹の会釈した時の微笑などが何うしても忘れられなかった。自分にも、あんなに親しい兄があったら、兄の勝彦が、もう少し普通の人間であったら、などと取り止めもないことを、考えながら、やっぱり忘れられないのは、一目顔を見合わせた丈の兄妹だった。否、本当に忘れられないのは、兄の方一人丈だったかも知れない。