轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
三
「よくいらっしゃいましたのね。先刻からお探ししていましたのよ。」
信一郎の言うべきことを、向うで言いながら、瑠璃子は、信一郎と並んで其処に空いていた椅子に腰を下した。
「あまりお見えにならないものですから、いらっしゃらないのかと思っていましたのよ。」
信一郎の方から、改めて挨拶する機会のないほど、向うは親しく馴々しく、友達か何かのように言葉をかけた。
「先日は、何うも失礼しました。」
信一郎は、遅ればせに、ドギマギしながら、挨拶した。
「いゝえ! 妾こそ。」
彼女は、小波一つ立たない池の面か何かのように、落着いていた。
丁度、その時に兄のニコライ・セザレヴィッチが壇上に姿を現した。が、瑠璃子夫人は立とうとはしなかった。
「妾、暫らく茲で聴かせていただきますわ。」
彼女は、信一郎に云うともなく独語のように呟いた。
三
丁度その時、兄のセザレヴィッチの奏き初めた曲は、ショパンの前奏曲だった。聴衆は、水を打ったような静寂の裡に、全身の注意を二つの耳に蒐めていた。が、その中で、信一郎の注意丈は、彼の左半身の触覚に、溢れるように満ち渡っていた。彼の左側には、瑠璃子夫人が、坐っていたからである。