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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

七

美奈さんは――美奈さんは――みなし――みなし――みなしご……」

そこまで、云ったとき、彼女の張り詰めた気力の糸が、ぶつりと切れたように、彼女はぐったりとなってしまった。

母が、直也を呼んだことが、彼女自身のためではなく、母が一番信頼する直也に、自分の将来を頼む為であったかと思うと、美奈子は母の真心に、その死よりも強き愛に、よゝとばかり、泣き伏してしまった。

その夜、瑠璃子の魂は、美しかりし彼女の肉体を永久に離れた。烈々たる炎の如き感情の動くまゝに、その短生を、火花の如く散らし去った彼女の勝気な魂は、恐らく何の悔をも懐くことなく縹渺として天外に飛び去ったことだろう。

七

母を失った美奈子の悲嘆は、限りもなかった。彼女は、世の中の凡てを失うとも、母さえ永らえて呉れゝばと、嘆き悲しんだ。

母の亡骸が、棺に納められた後、彼女は涙の裡に母の身辺のものを、片づけにかゝっていた。そして、最後に、母が刺されたその夜に、身に付けていた、白い肌襦袢に、手を触れなければならなかった。それには、所々血が滲んでいた。美奈子は、それに手を触れるのが恐ろしかった。が、母が身に付けたものを、他人の手にかけるのは、厭だった。