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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
六
自分が、青年の大事な/\機会の邪魔をしていると思うと、美奈子は何うにも、辛抱が出来なかった。
「妾、お母様、図書室へ行って来ますわ。一寸本が読みたくなりましたから。」
美奈子は、そう云って、母の返事をも待たず、つか/\と部屋を出ようとした。
母は、駭いたように呼び止めた。
「図書室へ行くのなんかおよしなさいね。昨夕は出なかったから、今日は散歩に出ようじゃありませんか。」
美奈子は、一寸駭いて足を止めた。ふと気が付くと、青年の顔は烈しい怒りのために、黒くなっていた。
六
美奈子は、母の真意を測りかねた。
母も、確に青年とたった二人限、散歩する約束をした筈である。そして、あの大切な返事を青年に与える約束をした筈である。それだのに、なぜ自分を呼び止めるのであろう。そうした機会を、彼等に与えようとして、席を外そうとする、自分を呼び止めるとは。
「えゝっ!」美奈子は、つい返事とも、駭きとも何とも付かぬ言葉を出してしまった。
「ねえ! 図書室なんか、明日いらっしゃればいゝのに。今夜は強羅公園へ行こうと思うの。ねえ! いゝでしょう。」
母はいつもよりも、もっと熱心に美奈子に勧めた。