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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

六

母と青年との一問一答に、小さい美奈子の胸は、益々傷けられて行くのだった。時々母が、

「美奈さん! 貴女は何う思って?」

などと黙っている彼女を、会話の圏内に入れようとする毎に、美奈子は淋しい微笑を洩す丈だった。

美奈子は、青年の姿を見ない前までは、青年の同行することは、恐ろしいが同時に限りない歓喜がその中に潜んでいるように思われた。が、それが実現して見ると、それは恐ろしく、寂しく、苦しい丈であることが、ハッキリと分った。此先一月も、こうした寂しさ苦しさを、味わっていなければならぬかと思うと、美奈子の心は、墨を流したように真暗になってしまった。

六

汽車は、美奈子の心の、恋を知り初めた処女の苦しみと悩みとを運びながら、グン/\東京を離れて行った。

夫人と青年との親しそうな、しめやかな、会話は続いた。夫人は久し振に逢った弟をでも、愛撫するように、耳近く口を寄せて囁いたり、軽く叱するように言ったりした。青年は青年で、姉にでも甘えるように、姉から引き廻されるのを欣ぶように、柔順に温和に夫人の言葉を、一々微笑しながら肯いていた。

美奈子は、母と青年との会話を、余り気にしている自分が、何だか恥しくなって来た。