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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

二

」

父は何気なく云った。が、荘田と云う名を聞くと、瑠璃子は直ぐ、豹の眼のように恐ろしい執拗なその男の眼付を思い出した。冷静な、勝気な、瑠璃子ではあったけれども、悪魔に頬を、舐められたような気味悪さが、全身をゾク/\と襲って来た。

二

荘田と云う名前を聴くと、瑠璃子が気味悪く思ったのも、無理ではなかった。彼女は、その人の催した園遊会で、妙な機みから、激しい言葉を交して以来、その男の顔付や容子が、悪夢の名残りのように、彼女の頭から離れなかった。

太いガサツな眉、二段に畳まれている鼻、厚い唇、いかにも自我の強そうな表情、その顔付を思い出して見る丈でも、イヤな気がした。そんな男と、云い争いをしたことが、執念深い蛇とでも、恨を結び合ったように、何となく不安だった。処が、その男が意外にも自分に婚を求めている。そう思う丈でも、彼女は妙な悪寒を感じた。よく伝説の中にある、白蛇などに見込まれた美少女のように。

瑠璃子は、相手の心持が、容易には分らなかった。容易に、その事を信ずることが出来なかった。

「本当でございますの? 杉野さんが、本当に荘田と仰しゃったのでございますの?」