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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

四

が、大男は執念く彼を放さなかった。

「まあ、一寸お待ちなさい。御相談があります。実は、熱海まで行こうと云う方があるのですが、その方と合乗して下さったら、如何でしょう、それならば大変格安になるのです。それならば、七円丈出して下されば。」

信一郎の心は可なり動かされた。彼は、電車の踏み段の棒にやろうとした手を、引っ込めながら云った。「一体、そのお客とはどんな人なのだい?」

四

洋服を着た大男は、信一郎と同乗すべき客を、迎えて来る為に、駅の真向いにある待合所の方へ行った。

信一郎は、大男の後姿を見ながら思った。どうせ、旅行中のことだから、どんな人間との合乗でもたかが三四十分の辛抱だから、介意ないが、それでも感じのいゝ、道伴であって呉れゝばいゝと思った。傲然とふんぞり返るような、成金風の湯治階級の男なぞであったら、堪らないと思った。彼はでっぷりと肥った男が、実印を刻んだ金指環をでも、光らせながら、大男に連れられて、やって来るのではないかしらと思った。それとも、意外に美しい女か何かじゃないかしらと思った。が、まさか相当な位置の婦人が、合乗を承諾することもあるまいと、思い返した。