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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
六
約束もしない人が、何うして一定の時日に、一定の場所に来ることがあるだろう。そう思って来ると、自分の子供らしさが、恥しいと同時に、寂しい頼りない気がした。或は、あれ切りもう一生逢われない人かも知れない。
彼女は、怏々として、暗いむすぼれた心持で電車に乗った。今までは楽しく明るい世の中が、何だか急に翳って来たようにさえ思われた。
が、美奈子の乗った九段両国行の電車が、三宅坂に止まったとき、運転手台の方から、乗って来る人を見たとき、美奈子は思わずその美しい目を眸った。
六
美奈子が、駭いて目を眸ったのも、無理ではなかった。車内へツカ/\と、這入って来て、彼女の直ぐ斜前へ腰を降ろしたのは、紛れもない、墓地で見た彼の青年であった。美奈子が二週間もの間、外ながらもう一度見たいと思っていたあの青年であった。彼女は、一目見たばかりではあったが、上品なその目鼻立を見ると、直ぐそれと気が付いた。
その青年に、つい目と鼻の位置に坐られると、美奈子は顔を赧めて、じっと俯むいてしまう女だった。が、心の裡では思った、何と云う不思議な偶然だろう。その人に逢えると思った場所では、逢えないで、悄然と帰って来る電車の中で、ヒョックリ乗り合わす。