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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
が、然しそれは『金色夜叉』の書かれた明治三十五年から、現在まで二十年も経過していることを忘れているからです。現在の文壇で、貴君が芸術的小説だと信じているものでも、二十年も経てば、みんな通俗小説になってしまうのです。過去の作品を論ずるのには、時代と云うことを考えなければ駄目です。『金色夜叉』は今読めば通俗小説かも知れませんが、明治時代の文学としては、立派な代表的作品です。」
信一郎は、思いの外に、スラ/\と出て来る自分の雄弁に興奮していた。
「過去の文学を論ずるには、やはり文学史的に見なければ駄目です。」
彼は、きっぱりと断定するように云った。
「それもそうですわね。」
瑠璃子夫人は、信一郎の素人離れした主張を、感心したように、しみ/″\そう云った。信一郎は俄に勇敢になって来た。
五
瑠璃子夫人が、新来の信一郎、殊に文学などの分りそうもない会社員の信一郎の言葉に、賛成したのを見ると、今度は三宅と小山男爵との二人が、躍気になった。
殊に青年の三宅は、その若々しい浅黒い顔を、心持薄赤くしながら可なり興奮した調子で云った。
「時代が経てば、どんな芸術的小説でも、通俗小説になる。