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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
三
母が帰らない中に、早く帰っていなければならぬと思いながらも、美奈子は腰を上げかねた。三十分、四十分、一時間近くも、美奈子は、其処に坐り続けていた。その時、彼女は、ふと近づいて来る人の足音を聴いたのである。
三
美奈子は、最初その足音をあまり気にかけなかった。先刻ちらりと見た西洋人の夫妻たちが通り過ぎているのだろうと思った。
が、その足音は不思議に、だん/\近づいて来た。二言三言、話声さえ聞えて来た。それはまさしく、外国語でなく日本語であった。しかも、何だか聞きなれたような声だった。彼女は『オヤ!』と思いながら、振り返って闇の中を透して見た。
闇の中に、人影が動いた。一人でなく二人連だった。二人とも、白い浴衣を着ているために、闇の中でも、割合ハッキリと見えた。美奈子は、じっと二人が近よって来るのを見詰めていた。十秒、二十秒、その裡にそれが何人であるかが分ると、彼女は全身に、水を浴びせられたように、ゾッとなった。それは、夜の目にも紛れなく青年と母の瑠璃子とであったからである。而も、二人は、彼等が恋人同志であることを、明かに示すように、身体が触れ合わんばかりに、寄り添うて歩いているのである。