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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
「これが忰の家内です」
と老婦人はそこへ着物を着更えて挨拶に来た細君を岸本に引合せた。
主人の帰りを待つ間、三人の話は東京の方にあるマドマゼエルの噂で持切った。細君はマドマゼエルが絵画にも趣味を有つことを話して、まだ仏蘭西に居る頃に彼女が描いたという油絵の額の前へも岸本を連れて行って見せ、彼女が残して置いて行ったという写真なぞをも取出して来た。
「マドマゼエルは仏蘭西に居る頃から人に頼みまして、日本の髪に結ったこともありましたよ。それほど日本好でしたよ」
仏蘭西語まじりに細君が言おうとすることを老婦人は英語で補った。老婦人は岸本に向って、自分は曾て倫敦に住んだことが有るという話や、そのために自分は家中で一番よく英語が話せる、娵はあまり話せないが忰の方はすこしは話せて好都合であるということなぞや、自分等の家族は以前は巴里の市中に住んだがこのビヨンクウルに住居を卜して引移って来たということや、この家屋もなかなか安くは求められなかったというようなことまで、いかにも心安い調子で話した。
「もう忰も見えそうなものです」と言う老婦人や細君に誘われながら、岸本は一緒に入口の廊下から石の階段を下りて庭を歩いた。