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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

次の土曜日の晩には食事に来てくれないか、自分等一同あなたを見たいと書いてよこした。最早あなたも少しは仏蘭西語を話されることと思う、自分の家の嫁は英語を話さず忰もとかく留守勝ちのために、しばしばあなたを御招きすることもしなかったと書いてよこした。東京の姪からも手紙で、あなたにお目に掛るかとよく尋ねよこすと書いてよこした。老婦人はこの手紙を英語で書いてよこした。あの書記のお母さんは一時は危篤を伝えられたほどで、病中に岸本はビヨンクウルを訪ねても老婦人には逢わずに帰って来たことも有った。

「仏蘭西へ来て一番最初に逢った老婦人が、一番多く自分のことを考えていてくれる」

岸本は何かにつけてそれを感じたのであった。

パントコオトの日も過ぎた頃、岸本は復たビヨンクウルから手紙を貰った。

その時はお母さんの手でなくて、書記の手で、二三の親しい友達や親戚のものが茶に集るから、岸本にも出掛けて来るようにと、してあった。

ベデカの案内記なしにはセエヌ河も下れなかった頃に比べると、ともかくも岸本は水からでも陸からでもビヨンクウルに行かれるまでに旅慣れて来た。彼は好きな仏蘭西人の家族を見る楽みをもって、電車でセエヌ河の岸を乗って行った。