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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
八十三
彼女の我儘は考えて見るだに恐ろしい、自分等には彼女の心は分らないと書いてよこした。
この老婦人の手紙を前に置いて見ると、岸本は自分まで一緒に叱られているような気を起した。何事も思った通りにしか出来ないのは、あのマドマゼエルばかりでなくて、彼自身が矢張それであるから。しかし彼は心の中でマドマゼエルを弁護した。「日本というものは自分に取っては空想の郷でしたからね」とは老婦人の述懐ではないか。言わばマドマゼエルは叔母さんの夢見たことを実際に身に行おうとした人ではないか。その人が日本に行き、日本人と結婚するという場合に、何故もっと同情のある心は持てないのであろうか。半死の床にある母親を捨てて仏蘭西を出たということは、あるいはマドマゼエルの落度かも知れないが、それほど思いつめたところが無くてどうして単身東洋の空に向うことが出来ようかと。
八十三
老婦人の手紙の中には可成苛酷しいことが書いてあった。しかし知らない土地の人でそれだけ真実のことを岸本のところへ書いてよこしてくれる人すら、めったに無かった。彼は異邦人としての自分の旅がそれほど土地の人達の生活から縁遠いものであることを知って来た。