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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

九十二

夫や、兄弟や、あるいは情人の身を案じ顔な婦女までが息をはずませてその間を往ったり来たりした。

僅か一週間ばかりの間に岸本はこんな空気の中に居た。急激な周囲の変化はあだかも舞台面の廻転によって劇の光景の一変するにも等しいものがあった。名高い社会党の首領で平和論者であった仏蘭西人が戦争の序幕の中に倒れて行ったことは一層この劇的な光景を物凄くした。岸本は自分の部屋へ行って独りでいろいろなことを思った。遠く故国を離れて来て図らず動乱の中に立った自分の旅の身に思い当った。夜の十一時頃には雨が降出して、窓から外に見える並木も暗かった。

九十二

壮丁という壮丁は続々国境に向いつつあった。出征する兵士の並木街を通るような光景が既に二日ばかりも続いた。早独逸軍の斥候が東仏蘭西の境を侵したという報知すら伝わっていた。下宿では主婦も、主婦の姪も食堂の窓のところへ行って、街路を通る歩兵の一隊を見送ろうとした。岸本が同じ窓に近く行った時は、主婦は彼の方を振向いて、

「岸本さん、争われないものじゃ有りませんか。吾家に居た若い独逸人の客が、ちゃんと戦争を知っていましたぜ。親の許から手紙が来ると大急ぎで巴里を発って行きましたぜ。