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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

隣室の高瀬が柳博士と連立って英国倫敦へ向け戦乱を避けようとする際に、岸本も同行を勧められたが、彼はむしろ仏蘭西の田舎へ行くことにして、北の停車場で高瀬と手を分った。敵の飛行船が巴里に襲って来た最初の晩は眠られなかったという画家の小竹も、その一行に加わって八月の半には既に英吉利海峡を越えて行った。

岸本が知っている僅かの仏蘭西人の中でも、ビヨンクウルの書記はヴェルサイユの兵営の方にあり、ラペエの詩人は巴里の自動車隊に加わり、ブロッスの教授は戦地の方へ行った二人の子息の身の上を案じつつあった。ビヨンクウルの書記からは特に兵営から岸本の許へ手紙をくれ、われらは互いに同じ聯合軍の側に立つと考えるのも嬉しいと書いてよこした。東京にある滝新夫人(老婦人の姪)からも夫と一緒に仏蘭西へ来遊の意を伝えて来たが、この戦争ではどうすることが出来ようと書いてよこした。岸本の隣室を借りて寝泊りしていた控訴院付の弁護士も何時の間にか見えなくなった。例の「シモンヌの家」の珈琲店の主人、下宿の家番の亭主、これらの人達までがいずれも戦地を指して出発した。

露西亜軍が東独逸に入ったという戦報の伝わった日は、岸本は自分の部屋に居て荷造りに日を暮した。