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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
百四
百四
合唱の声が止むと、大きな風琴の響のみが天井の高い石の建築物の内部に溢れた。やがて白い法服を着けた年とった僧侶が多勢の信徒を見下すような位置にある高い説教台の上に立った。戦時のツッサンの祭に際会して死者を弔うような説教がそれから可成長く続いた。岸本の心は慷慨な口調を帯びた僧侶の説教の方へ行き、王冠の形した古めかしい説教台の方へ行き、その説教台と相対した位置にある耶蘇の架像の方へ行った。しかし彼は何時の間にかそんなことを忘れてしまった。彼は、赤い法服を着け金色の十字架を胸のあたりに掛けた二三の老僧や黒い法服を着けた十幾人かの中年の僧侶が祭壇の前に並んでいることも忘れ、白い冠りものを冠った尼僧が教え子らしい女生徒を引連れて聴衆の中に混っていることも忘れ、つい側に腰掛けた黒ずくめの風俗の婦人達が説教に耳を傾けていることも忘れ、三本ずつ並んでとぼる長い蝋燭の火が祭壇のあたりをかがやかしていることも忘れてしまった。唯彼は石の柱の側に黙然と腰掛けて、仮令僅の間なりとも「永遠」というものに対い合っているような旅人らしい心持に帰って行った。
傾きかけた秋の日は高い岡の上に立つ寺院の窓を通して堂内の石の柱に映った。