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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

百五

澱み沈んだ羅馬旧教の空気の中にあって、どれ程の「人」の努力があの古いサン・テチエンヌの寺院を活かしているかを想像して見た。

百五

リモオジュには岸本は葡萄の熟するからやがて酒に醸されるまで居た。マルヌの戦いも敵軍の総退却で終り、巴里包囲の危険も去り、この町へ避難して来た人達も最早大抵帰って行った。戦時の不自由は田舎に居るも巴里に行くも牧野や岸本に取って殆ど変りが無かった。宿の主婦は姪を連れて復た巴里の方へ帰ろうとしていた。牧野も同時にこの町を引揚げようとしていた。

「僕は一歩先に出ます。ここまで来た序にボルドオの方を廻って見て来ます。君等は巴里の方で待っていてくれたまえ」

この話を岸本は牧野にした。

早や毎朝のように霜が来た。暖炉には薪を焚くように成った。彼はこの田舎で刺激された心をもって、もう一度巴里の空気の中へ行こうとしていた。旅の序に、日頃想像する南方の仏蘭西をも見るという楽みを胸に描いていた。そこでボルドオを指して出掛けた。開戦当時のような混雑には遭遇しないまでも、改札口のところに立つ警戒の兵士に警察で裏書して貰って来た戦時の通行券を示すような手数は要った。