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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
リモオジュの停車場まで送って来た牧野や少年のエドワアルと手を分ってからは、彼は独りの旅となった。やがて彼の乗った汽車はリモオジュの町はずれを通過ぎた。二月半の滞在は短かったとは言え、彼は可成楽しい気の置けない時をそこで送ったことを思い、欧羅巴へ来てから以来ほんとうに溜息らしい溜息の吐けたのもそこであることを思い、よく行って草を藉いた牧場にも、赤々とした屋根や建築物の重なり合った対岸の町々にも、リモオジュ全体を支配するようなサン・テチエンヌの高い寺院の塔にも、別離を告げて行こうとした。汽車の窓からヴィエンヌ河も見えなくなる頃は、秋雨も歇んだ。
岸本は全く見知らぬ仏蘭西人と三等室に膝を突合せて気味悪くも思わないまでに旅慣れて来たことを感じながら、汽車の窓に近く身を寄せて秋のまさに過ぎ去ろうとしている仏国中部の田舎を見て行った。彼は雨あがりの後の黄ばんだ雑木林を眺めたり、丘つづきの傾斜に白樺、樫、栗などの立木を数えたりして乗って行った。時としては線路に添うた石垣の上に野生の萩かとも見まがう黄な灌木の葉の落ちこぼれているのを見つけて、国の方の東北の汽車旅、殊に白河あたりを思出した。