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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

十九

昨日と、一昨日と、俺は二度も東京駅まで見に行った」

「そいつは済みませんでした。私は出迎えをお断りするつもりで、わざとお知らせもしませんでした。今々品川からここへやって来たところです」

「捨吉は品川へ着いたんだとサ」兄は家の人達へ聞えるように言って笑った。

制えに制えたようなものが家の内の空気を支配していた。子供等の顔までも何となく岸本には改まって見えた。繁は父の帰宅を知らせるために、学校の方に居る泉太の許へ駈出して行った。

十九

「只今」

という泉太の声が玄関の方でして、やがてこの年長の方の子供は眼を円くしながら学校通いの短い袴のまま父の側へ御辞儀に来た。

「オオ、泉ちゃんも大きく成りましたね」

義雄を前に置いて、岸本がそれを言うと、泉太は三年振で会った父から大きく成ったと言われることをさも嬉しそうにしていた。

「泉ちゃんはまだ学校が有ったんだね」と義雄は泉太の方を見て訊いた。

「繁ちゃんが迎えに来てくれて――それで、僕の先生がもう帰ってもいいッて」と泉太は義雄に言った。

「学校の先生も気を利かして、今日は帰してよこして下すった」と嫂がそこへ来て言い添える。

「父さん、父さんッて、毎日のように言い暮して――どれ程父さんのお帰りを待っていたものか知れません」