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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

遠い旅にお出掛になるなんてことをうかがった時は、不思議な位に思いましたよ。その時はもう離れられないものに成っていましたから。まあどうしてそんな心持に成れただろうと思いましてね。あの晩のこと覚えていらしって――ほら、元園町のお友達からお使で、迎えの俥の来たことがありましたろう。会があったりして随分遅く一時か二時頃に帰っていらしって、好い事があるから話して聞かせるなんて仰って、わたしがまいりましたら、可哀そうな娘だなあッて、堅く抱きしめて大きな溜息していらしったの。わたしも何だかよく分らなかったんですけれど、悲しくなって泣いちまいましたの。今でもあの晩のことを時々思い出しますよ。あの次の日かに旅のお話がありましたっけね。彼地へお立ちになる頃は、憎みも余程少くはなっていましたが、未だそれでも残っておりました。神戸をさして行っておしまいになってからは、それが皆思いやりというようなものに変ってしまいましたのよ。そして長い間にだんだん叔父さんに見つけたものばかりが、他の人の持っていないものだと思うようなものばかりが残りましたのよ。それからはもうほんとうに好きになってしまいましたの。