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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
右訳歌
「緑の草の中にしも腕を君が擲げやれば
を指の尖のほの透きてあからむ花と擬ふかな、
さても微笑むやさ眼や。散りては更に寄せ来なる
雲の波だつ空の下に照りては陰る牧の原。
二人巣籠るこのほとり眼路のかぎりはおしなべて
黄金の花の毛莨、野末の線は白銀に、
いぬ芹生ふる山子の垣根の端に連なりぬ。
げに静けさの眼にも見えて、漏刻の如しめやかに。
日影も忍ぶ草がくれ、蜻蛉はひとりみ空より
解けにし藍の一すぢの糸かとばかりかゝりたる、
『時』の翅もさながらに二人の上に休らひぬ。
噫、うち寄せむ、胸と胸、これや変らぬ珍宝、
美し契のこまやかにたとしへもなきこの刻、
二重に合へる静けさぞ君と我との愛の歌」
生命の家。岸本の胸に浮ぶは曾て中野の友人によって訳されたこの歌であった。彼は六畳の部屋の片隅に子供の着物なぞを入れた古い箪笥の前に居て、そこに足を投出しながら、しばらく障子の開いたところからうち湿った秋の空を眺めていた。側には節子が針仕事する手を休めて、同じように箪笥に倚りかかり、同じように白足袋はいた足を延ばし、丁度並んだ男女の順礼のように二人して通り越して来た小さな歴史を思い出し顔であった。