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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
一箇村の中で唯一人結婚しない女がある。お霜婆さんという女だけが一生独りで暮した。それだけだ。それ見ろ、結婚しないなんてことは人間の仲間に入れないことだ。一度はお嫁に行かんけりゃ成らん。一度行って、出て来たものなら、またそれでも可い。一度も行かんという法はないサ。例えばだ、嘉代の死んだに就いて諸方へ通知を出したろう、この葉書の裏に親戚総代として岸本捨吉と連名になっている田辺弘とあるのはこれはお節さんの旦那さんの名ですかなんて、田舎の方へ行っても直ぐにそんなことを訊かれる。世間というものはそういうものだサ」
「それで、兄さんはどうしようというんですか」と岸本が訊いた。
「だから明日でも節ちゃんをお前のところへ呼んでサ、お前からもよく彼女に勧めて貰いたい」と義雄が言った。
「私からそれを勧めることは出来ません」
岸本は簡単に答えた。それを聞いて義雄は更に言葉を継ごうとした。
百十三
義雄は弟の部屋を見廻して更に言いつづけた。「これでお前が細君も貰わずにいるなんてこともいくらか節ちゃんの方に響いているテ。遠心力のようなもので、遠廻しに引いている気味があるテ。節ちゃんもあれで一度はお嫁に行く気になったんだ。