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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

四

弔いの儀式のために特に用意したらしい説教台の横手にある大きな花瓶と花と葉とのみが残った。そろそろ熱くなりかける時分のことで、教会堂風な窓々から明く射しこんで来る五月の日の光のみが残った。

岸本は立去りがたい思をして、高い天井の下に映る日の光を眺めながら、つくづく生き残るものの悲哀を覚えた。その悲哀を多くの親しい身内のものに死別れた後の底疲れに疲れて来た自分の身体で覚えた。

足立や菅を見ると、若かった日の交遊が岸本の胸に浮んで来る。つづいてあの亡くなった青木のことなぞが聯想せられる。岸本と一緒にその教会堂の石階を降りた二人の学友は最早青木なぞの生きていた日のことを昔話にするような人達に成っていた。

四

それから岸本は二人の学友と一緒に見附を指して歩いた。久し振で足立の家の方へ誘われて行った。岸本を教会堂まで送って行った車夫は空車を引きながら、話し話し歩いて行く岸本の後へ随いて来た。

「何年振で会堂へ来て見たか」そんな話をして行くうちに、旧い見附跡に近い空地のところへ出た。風の多い塵埃の立つ日で、黄ばんだ砂煙が渦を巻いてやって来た。その度に足立も、菅も、岸本も、背中をそむけて塵埃の通過ぎるのを待っては復た歩いた。