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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
「一体何うしたのでございます。そんなにお腹立ち遊ばして。」
瑠璃子は、父の顔を見上げながら、オズ/\訊いた。父は、口にするさえ、忌々しそうに、
「訊くな。訊くな。汚らわしい。俺達を侮辱している。俺ばかりではない、お前までも侮辱しているのだ。」と、歯噛をしないばかりに激昂しているのだった。
自分までもと、云われると、瑠璃子は更に不安になった。自分のことを、一体何う云ったのだろう。自分に就いて、一体何を云ったのだろう。恋人の父は、自分のことを、一体何う侮辱したのだろう。そう考えて来ると、瑠璃子は父の機嫌を恐れながらも、黙っている訳には行かなかった。
「一体どんなお話が、ございましたの。妾の事を、杉野さんは何う仰しゃるのでございますか。」
「訊くな。訊くな。訊かぬ方がいゝ。聞くと却って気を悪くするから。あんな賤しい人間の云うことは、一切耳に入れぬことじゃ。」
やゝ興奮の去りかけた父は、却って娘を宥めるように優しく云いながら、二階の居間へ行くために階段を上りかけた。父は、杉野子爵を賤しい人間として捨てゝ置くことが出来た。が、瑠璃子には、それは出来なかった。どんなに、子爵が賤しくても、自分の恋人の父に違なかった。