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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
五
が、翌日眼を覚まして、瑠璃子が前の日の朝の、不快な記憶を想い浮べながら、その朝の郵便物に眼をやったとき、彼女は思わず、口の裡で、小さい悲鳴を挙げずにはいられなかった。其処に、昨日と同じ内容証明の郵便物が、三通まで重ねられていたのである。
それを取り上げた彼女の手は、思わずかすかに顫えた。もう、父に隠すとか隠さないとか云う余裕は、彼女になかった。彼女はそれを取り上げると、救いを求むる少女のように、父の寝室に駈け込んだ。
父は起きてはいなかったが、床の中で眼を覚ましていた。
「お父様! こんな手紙が参りました。」瑠璃子の声は、何時になく上ずッていた。
「昨日のと同じものだろう。いや心配せいでもえゝ、お前が心配せいでもえゝ。」
父は、静かにそう云った。昨日の書状も、父は何時の間にか、見ていたのである。
瑠璃子は、今更ながら、自分の父を頼もしく思わずにはいられなかった。
五
唐沢の家を呪詛するような、その不快な通知状は、その翌日もその又翌日も、無心な配達夫に依って運ばれて来た。
初ほどの驚駭は、受けなかったけれども、その一葉々々に、名状しがたい不快と不安とが、見る人の胸を衝いた。