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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
が、今では不安な、いやな仕事になってしまった。
彼女は、その朝もオズ/\郵便物に目を通した。幾通かの手紙の一番最後に置かれていた鳥の子の立派な封筒を取り上げて、ふと差出人の名前に、目を触れたとき、彼女の視線はそこに、筆太に書かれている四字に、釘付けにされずにはいなかった。それは紛れもなく荘田勝平の四字だったのである。
黒手組の脅迫状を受けたように、悪魔からの挑戦状を受けたように、瑠璃子の心は打たれた。反感と、憎悪とある恐怖とが、ごっちゃになって、わく/\と胸にこみ上げて来た。
彼女は、その封筒の端をソッと、醜い蠑の尻尾をでも握るように、摘み上げながら、父の部屋へ持って行った。
父は差出人の名前を、一目見ると、苦々しげに眉をひそめた。暫らくは開いて見ようとはしなかった。
「何と申して参ったのでございましょう。」瑠璃子は、気になって、急かすように訊いた。
父は、荒々しく封筒を引き破った。
「何だ!」父の声は、初から興奮していた。
「――此度小生に於て、買占め置き候貴下に対する債権に就て、御懇談いたしたきこと有之、且つ先日杉野子爵を介して、申上げたる件に付きても、重々の行違有之、右釈明旁々近日参邸いたし度く――あゝ何と云う図々しさだ。