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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

瑠璃子は、取次ぎに出ようか出まいかと、考え迷った。顔を合わしたり、一寸でも言葉を交すのが厭でならなかった。が、それかと云って、平素気が付けば取次ぎに出る自分が、此の人に限って出ないのは、何だか相手を怖れているようで彼女自身の勝気が、それを許さなかった。そうだ! あんな卑しい人間に怯れてなるものか。彼の男こそ、自分の清浄な処女の誇の前に、愧じ怯れていゝのだ。そう思うと、瑠璃子は処女にふさわしい勇気を振い興して、孔雀のような誇と美しさとを、そのスラリとした全身に湛えながら、落着いた冷たい態度で、玄関へ現れた。

勝平は、瑠璃子の姿を見ると、此間会った時とは別人ででもあるように、頭を叮嚀に下げた。

「お嬢さまでございますか、先日は大変失礼を致しまして、申訳もございません。今日は、あのう! お父様はお在宅でございましょうか。」

こうも白々しく、――あゝした非道なことをしながら、こうも白々しく出られるものかと、瑠璃子が呆れたほど、相手は何事もなかったように、平和で叮嚀であった。

瑠璃子は、一寸拍子抜けを感じながらも、冷たく引き緊めた顔を、少しも緩めなかった。