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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「在宅すことは、在宅すが、お目にかゝれますかどうか一寸伺って参ります。」

瑠璃子は、そう高飛車に云いながら、二階の父の居間に取って返した。

「やって来たな。よし、下の応接室に通して置け。」

瑠璃子の顔を見ると、父は簡単にそう云った。

応接室に案内する間も、勝平は叮嚀に而も馴々しげに、瑠璃子に話しかけようとした。が、彼女は冷たい切口上で、相手を傍へ寄せ付けもしなかった。

「やあ!」挨拶とも付かず、懸声とも付かぬ声を立てながら、父は応接室に入って来た。父は相手と初対面ではないらしかった。二三度は会っているらしかった。が、苦り切ったまゝ時候の挨拶さえしなかった。瑠璃子は、茶を運んだ後も、はしたないとは知りながら、一家の浮沈に係る話なので、応接室に沿う縁側の椅子に、主客には見えないように、そっと腰をかけながら、一語も洩さないように相手の話に耳を聳てた。

「此の間から、一度伺おう/\と思いながら、つい失礼いたしておりました。今度、閣下に対する債権を、私が買い占めましたことに就ても、屹度私を怪しからん奴だと、お考えになったゞろうと思いましたので、今日はお詫び旁、私の志のある所を、申述べに参ったのです。