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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
父の友人や知己は、大抵は、父のために、三度も四度も、迷惑をかけさせられていた。父が、金策の話をしても、彼等は体よく断った。断られると、潔癖な父は、二度と頼もうとはしなかった。
六月が二十五日となり、二十七日となった。連日の奔走が無駄になると、父はもう自棄を起したのであろう。もう、ふッつりと出なくなった。幡随院長兵衛が、水野の邸に行くように、父は怯びれもせず、悪魔が、下す毒手を、待ち受けているようだった。
今年の春やっと、学校を出たばかりの瑠璃子には、父が連日の苦悶を見ても、何うしようと云う術もなかった。彼女は、たゞオロ/\して、一人心を苦しめる丈だった。
彼女の小さい胸の苦しみを、打ち明けるべき相手としては、たゞ恋人の直也がある丈だった。が、彼女は恋人に、まだ何も云っていなかった。
家の窮状を訴えるためには、いろ/\な事情を云わなければならない。荘田の恨みの原因が、直也の罵倒であることも云わなければならない。直也の父が、不倫な求婚の賤しい使者を務めたことも云わなければならない。それでは、恋人に訴えるのではなくして、恋人を責めるような結果になる。