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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
今日止むを得ません主命で、主人も少々現金の必要に迫られましたものですから止むを得ず期限通りにお願い致しまする次第で、何の御猶予も致しませんで、誠に恐縮致しておる次第でござります。」父は、そうした挨拶に返事さえしなかった。
「証文を出して呉れたまえ。」父の言葉は、匕首のように鋭く短かった。
「はあ! はあ!」
相手は、周章たように、ドギマギしながら、折鞄の中から、三葉の証書を出した。
父は、じっと、それに目を通してから、右の手に、鷲掴みにしていた札束を、相手の面前に、突き付けた。
相手は、父の鋭い態度に、オド/\しながら、それでも一枚々々算え出した。
「荘田に言伝をしておいて呉れたまえ、いゝか。俺の云うことをよく覚えて、言伝をして、おいて呉れ給え。此の唐沢は貧乏はしている。家も邸も抵当に入っているが、金銭のために首の骨を曲げるような腰抜けではないぞ。日本中の金の力で、圧迫されても、横に振るべき首は、決して縦には動かさないぞと。いゝか。帰って、そう云うのだ! 五万や十万の債務は、期限通何時でも払ってやるからと。」
父は、犬猫をでも叱咤するように、低く投げ捨てるような調子で云った。