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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

何人が妾の心も身体も処女であることを信じて呉れるでしょう。妾は貴君丈には、それを信じて戴きたいと思います。が、妾にはそれを強いる権利はありません。

男性化と言う言葉があります。妾の現在はそれです。妾は女性としての恋を捨て、優しさを捨て慎しやかさを捨てゝ、たゞ復讐と膺懲のために、狂奔する化物のような人間になろうとしているのです。顧みると、自分ながら、浅ましく思わずには、いられません。が、悪魔を倒すのには、悪魔のような心と謀計とが必要です。

貴君を愛し、また貴君から愛されていた無垢な少女は、残酷な運命の悪戯から、凡ての女性らしさを、自分から捨ててしまうのです。凡ての女性らしさを、復讐の神に捧げてしまうのです。愛も恋も、慎しやかさも淑さも、その黒髪も白き肌も。

次ぎのことを申上げるのは、一番厭でございますが、荘田からの最初の申込みを取り継がれた方は、貴君のお父様です。従って、求婚に対する妾の承諾も、順序として、貴君のお父様に、取次いでいたゞかねばなりません。妾は、貴君に対する、この不快な恐ろしい手紙を書いた後に、貴君のお父様宛に、もう一つの、もっと不快な恐ろしい手紙を書かねばなりません。