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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
其裡に、ゼイ/\と息も絶えそうに、喘ぎ始めた勝平の声が、聞え出した。
「苦しい! 苦しい! 人殺し! 人殺し!」
勝平は、到頭最後の悲鳴を出してしまった。そうした声を聞くと、瑠璃子の心にも、勝平に対する憐憫が湧かずにはいなかった。彼女は、始めて我に返ったように、台所の方に駆け出しながら、大声を出した。
「老爺! 老爺! 早く来ておくれ! 泥棒! 泥棒!」
瑠璃子の声も、スッカリ上ずッてしまっていた。が、そう叫んだ時、彼女の頭の中に突然恋人の直也の事が閃いた。彼は、勝平を射とうとして誤って、美奈子を傷つけた為、危く罪人となろうとしたのを、勝平に対する父の子爵の哀訴のために、告訴されることを免れた。が、彼は敵の勝平からそうした恩恵を受けたことを、死ぬほど恥しがって、学業を捨ててしまって、遠縁の親戚が経営しているボルネオの護謨園に走ろうとしている。瑠璃子は、そんな噂を、耳にはさんでいる。が、あの多血性な恋人は、そうした逃避的な態度を、捨てゝ、その恋の敵を倒すために、再び風雨の夜に乗じて迫ったのであろうか。否、自分に訣別するため、外ながら自分を見ようとした時、偶然自分が危難に遭遇したため、前後の思慮もなく飛び込んだのではないだろうか。