轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

それは、紛ぎれもなく白金だった。しかも撫でている指先が、何かツブ/\した物に触れたので、眸を凝すと、鋭い光を放つ一顆の宝石が、鏤められていた。而もそれは金で象眼された小さい短剣の柄に当っていた。それは希臘風の短剣の形だった。復讐の女神ネメシスが、逆手に掴んでいるような、短剣の形だった。信一郎は、その特異な、不思議な象眼に、劇しい好奇心を、唆られずにはいられなかった。時計の元来の所有者は、女性に違いなかった。が、その象眼は、何と云う女らしからぬ、鋭い意匠だろう。

日は、もうとっぷりと、暮れてしまった。海上にのみ、一脈の薄明が、漂うているばかりだった。運転手は、なか/\帰って来なかった。淋しい海岸の一角に、まだ生あたゝかい死屍を、たゞ一人で見守っていることは、無気味な事に違いなかった。が、先刻から興奮し続けている信一郎には、それが左程、厭わしい事にも気味の悪い事にも思われなかった。彼はある感激をさえ感じた。人として立派な義務を尽しているように思った。

信一郎は、ふとこう云う事に気が付いた。たとい、青年からあゝした依託を受けたとしても、たゞ黙って、此の高価な白金の時計を、死屍から持ち去ってもいゝだろうか。