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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
運転手は顫えながら、車体に取り付けてある洋燈に、点火した。周囲が、急に明るくなった。
「お伴じゃないのですね。」医者が検視をするのを見ながら、巡査は信一郎に訊いた。
「そうです。たゞ国府津から乗合わしたばかりなのです。が、名前は判って居ます。先刻名乗り合いましたから。」
「何と云う名です。」巡査は手帳を開いた。
「青木淳と云う文科大学生です。宿所は訊かなかったけれど、どうも名前と顔付から考えると、青木淳三と云う貴族院議員のお子さんに違いないと思うのです。無論断言は出来ませんが、持物でも調べれば直ぐ判るでしょう。」
巡査は、信一郎の云う事を、一々肯いて聴いていたが、
「遭難の事情は、運転手から一通り、聴きましたが、貴君からもお話を願いたいのです。運転手の云うことばかりも信ぜられませんから。」
信一郎は言下に「運転手の過失です。」と云い切りたかった。過失と云うよりも、無責任だと云い切りたかった。が、戦きながら、信一郎と巡査との問答を、身の一大事とばかり、聞耳を澄ましている運転手の、罪を知った容子を見ると、そう強くも云えなかった。その上、運転手の罪を、幾何声高に叫んでも、青年の甦る筈もなかった。