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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

やはり、月並ですが、明治の文学は紅葉などに代表させたいと思うのです。」

「尾崎紅葉!」小山男爵は、『クスッ』と冷笑するような口調で云った。

「『金色夜叉』なんか、今読むと全然通俗小説ですね。」

文科の学生の三宅が、その冷笑を説明するように、吐出すように云った。

瑠璃子夫人は、三宅の思い切った断定を嘉納するように、ニッと微笑を洩した。信一郎は初めて、口を入れて、直ぐ横面を叩かれたように思った。瑠璃子夫人までが、微笑で以て、相手の意見を裏書したことが、更に彼の心を傷けた。彼は思わず、ムカ/\となって来るのを何うともすることが出来なかった。彼は、自分の顔色が変るのを、自分で感じながら、死身になって口を開いた。

「『金色夜叉』を通俗小説だと云うのですか。」

彼の口調は、詰問になっていた。

「無論、それは読む者の趣味の程度に依ることだが、僕には全然通俗小説だと思われるのです。」

若い文科大学生は、何の遠慮もしないで、彼の信念を昂然と語った。

「それは、貴君が作品と時代と云うことを考えないからです。現在の文壇の標準から云えば、『金色夜叉』の題目なんか、通俗小説に違ないです。