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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

美しき遅参者

一

夫と妻とは、蒼白になりながら、黙々として相対していた。信一郎は、ポケットに入れてある時計が、何か魔の符でもあるように、気味悪く感ぜられ始めた。

美しき遅参者

一

青年の横死は、東京の各新聞に依って、可なり精しく伝えられた。青年が、信一郎の想像した通り青木男爵の長子であったことが、それに依って証明された。が、不思議に同乗者の名前は、各新聞とも洩していた。信一郎は結局それを気安いことに思った。

信一郎が、静子を伴って帰京した翌日に、青木家の葬儀は青山の斎場で、執り行われることになっていた。

信一郎は、自分が青年の最期を介抱した当人であると云う事を、名乗って出るような心持は、少しもなかった。が、自分の手を枕にしながら、息を引き取った青年が、傷ましかった。他人でないような気がした。十年の友達であるような気がした。その人の面影を偲ぶと、何となくなつかしい涙ぐましい気がした。

遺族の人々とは、縁もゆかりもなかった。が、弔われている人とは、可なり強い因縁が、纏わっているように思った。彼は、心からその葬いの席に、列りたいと思った。

が、その上、もう一つ是非とも、列るべき必要があった。