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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
二
貴女のその秀れた美しさと、貴女の教養や趣味に対して、心から敬慕しているものです。が、僕は貴女がそうした天分や教養を邪道に使っているのを見ると、本当に心が暗くなるのです。僕は青木君の為にばかりでなく、貴女自身のために、僕の云ったことをよく玩味していたゞきたいと思うのです。」
こう信一郎が、述べ来った時、今まで傾聴しているような態度をしていた夫人は、つと頭を上げた。
「あの、お言葉中で恐れ入りますが、御忠告なら、御免を蒙りたいと思います。御用事丈を承わる筈であったのでございますから。」
鋼鉄のような凜とした冷たさが、その澄んだ声の内に響いていた。
二
『御忠告ならば、御免を蒙る。』と、夫人がきっぱりと云い放つのを聴くと、信一郎は夫人に対して、最後の望みを絶った。青木淳は、『僅に残っている良心』と、書いている。が、僅に残っている良心どころか良心らしいものは、片さえ残っていない。女らしい、つゝましい心の代りに、そこに翼を拡げているものは、恐ろしい吸血鬼である。純真な男性の血を好んで嗜なむ怪物である。夫人の良心に訴えて、少しでも彼女を、いゝ方に改めさせてやろうと思ったのは、悪魔に基督の教を説くようなものであると思った。