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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

五

母は笑ったまゝ返事をしなかった。

丁度その時に、汽車が品川駅に停車した。四五人の乗客が、ドヤ/\と入って来た。

丁度その乗客の一番後から、麻の背広を着た長身白皙の美青年が、姿を現わした。瑠璃子夫人の姿を見ると、ニッコリ笑いながら、近づいた。右の手には旅行用のトランクを持っていた。

「おや! いらっしゃい!」

夫人は、溢れる微笑を青年に浴びせながら言った。

「さあ! おかけなさい!」

夫人はその青年のために、座席を取って置いたかのように、自分の右に置いてあった小さいトランクを取り除けた。

五

美奈子は、駭きに目を眸りながら、それでもそっと青年の顔を窃み見た。それは、紛れもなく彼の青年であった。墓地で見、電車に乗り合わし、自分の家を訪ねるのを見た彼の青年に違いなかった。

美奈子は、胸を不意に打たれたように、息苦しくなって、じっと面を伏せていた。

が、美奈子のそうした態度を、処女に普通な羞恥だと、解釈したらしい瑠璃子は、事もなげに云った。

「これが先刻お話した青木さんなの。」

紹介された青年は、美奈子の方を見ながら、丁寧に頭を下げた。

「お嬢様でしたか。いつか一度、お目にかゝったことがありましたね。