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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
」
青年はスックと立ち上った。もう美奈子を隔てゝ、話をするほどの余裕もなくなったのであろう、彼は、激しく瑠璃子の前に詰めよった。
美奈子は、浅ましい恐ろしい物を見たように、面を伏せてしまった。
「奥さん! 貴女は、貴女は何を仰しゃるのです。僕! 僕! 僕が、一昨夜申上げたこと、あのお返事を今、なさろうとするのですか。あの、あのお返事を!」
激しい興奮のために、彼の身体は顫え、彼の声は裂け、彼の言葉は咽喉にからんで、容易には出て来なかった。
「まあ! お坐りなさい! そう、貴君のように興奮なさっては、話が、ちっとも分らなくなりますわ。まあ! 坐ってお話しなさいませ。妾、今夜はよくお話したいと思いますから。」
瑠璃子の態度は、水の如く冷たく澄んでいた。たしなめられて、青年は不承々々に元の席に復したが、彼の興奮は容易には去らない。彼は火のように、熱い息を吐いていた。
「坐ります。坐ります。が、あのお話を、今茲でなさるなんて、あんまりではありませんか。あれは、僕丈の私事です。私事的な事です。それを今茲でお話しになるなんて、あんまりではありませんか。あの晩、僕が何と申上げたのです。