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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
」
母は、こう言って悵然としたが、また直ぐ言葉を続けた。
「子供が、触ってはいけないと言われた草花に、却って触りたくなるような心持で、青木さんを、わざと箱根へ連れて来たのです。あの人に何の興味があったと云う訳でもないのです、おせっかいなことを言った人に対する意地で、ついそんなことをしてしまったのです。それから、恐ろしい罰を受けようとは夢にも知らなかったのです。」
母の言葉は、沈み切っていた。強い悔が、彼女の心を苛んでいることを示していた。
「妾の想像が違ったら、御免下さい。貴女の清浄な純な心に映った男性を妾が奪うと云う恐ろしいことをしていたのです。美奈さん! 許して下さい。美奈さん。」
涙などは、今まで一度も流したことのない母の声が、湿んでいた。
「貴女に対して、何とお詫びしていゝか分らないのです。貴女の心に萌んだ美しい想の芽を妾が蹂躙していようとは、妾が! 貴女を何物よりも愛している妾が。」
瑠璃子の眼に、始めて涙が光った。
「取り返しの付かない、恐ろしいことです。妾が、たゞホンの悪戯のために、ホンの意地の為めに、宝石にも換えがたい貴女の純な感情を蹂み躙っていようとは、思い出す丈でも、妾の心は張り裂けるようです。