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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
八
母の心の悶えは、益々烈しくなって行くようだった。
「妾の生活が、破産する日が、到頭来たのです。妾の生活の罰が、妾の最も愛する貴女の上に振りかかって来ようとは。」
瑠璃子の声はかすかに顫えていた。
「妾は、今までどんな人から、どんなに妾の生活を非難されても、ビクともしなかったのです。妾の生活態度のために、犠牲者が出ようとも、ビクともしなかったのです。妾は、孔雀のように勝ち誇っていたのです。凡ての男性を蹂み躙っていたのです。が、男性ばかりを蹂み躙っているつもりで、得意になっていると、その男性に交って、女性! しかも妾には一番親しい女性を蹂み躙っていたのです。」
瑠璃子は、そう云い切ると、じっと面を垂れたまゝ黙ってしまった。
美奈子は、母の真剣な言葉に依って、胸をヒタ/\と打たれるように思った。母が、自分のために何物をも犠牲にしようと云う心持、自分を傷けたために、母が感じている苦悶、そうしたものが美奈子に、ヒシ/\と感ぜられた、自分をこれほど迄、愛して呉れる母には、自分も凡てを犠牲にしてもいゝと思った。
「お母様! もう何も、仰しゃって下さいますな、妾、青木さんのことなんか、ほんとうに何でもないのでございます。