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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
火を煽る者
」そう云いながら、美奈子はしく/\と泣きつゞけていたが、「が、妾今晩、お母様の妾に対するお心を知ってつく/″\思ったのです。お母様さえ、それほど妾を愛して下されば、世の中の凡ての人を失っても妾は淋しくありませんわ。」
そう云いながら、美奈子は母に対する本当の愛で燃えながら、母の傍にすり寄った。瑠璃子は、彼女の柔いふっくりとした撫肩を、白い手で抱きながら云った。
「本当にそう思って下さるの。美奈さん! 妾もそうなのよ。美奈さんさえ、妾を愛して下されば、世の中の凡ての人を敵にしても、妾は寂しくないのです。」
二人は浄い愛の火に焼かれながら、夏の夜の宵闇に、その白い頬と白い頬とを触れ合せた。
火を煽る者
一
青年の身体は、燃えた。
烈しい憤怒と恨みとのために、火の如く燃え狂った。
彼は、その燃え狂う身体を、何物かに打ち突けたいような気持で走った。闇の中を、滅茶苦茶に走った。闇の中を、礫のように走った。滅茶苦茶に、走りでもする外、彼の嵐のような心を抑える方法は何もなかった。樹にでも、石にでも、当れば当れ、川にでも渓にでも陥らば陥れ、彼はそうした必死的な気持で、獣のように風のように、たゞ走りに走った。