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しんじゅふじん
真珠夫人
菊池 寛
「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页
瑠璃子は、やっと安堵したように云った。
美奈子と瑠璃子とが、同じ寝室に入って、寝台の中に横わったのは、もう十一時を廻った頃だった。
電燈を消してからも、美奈子は母と暫らくの間、言葉を交えた。その裡に、十二時が鳴った。彼女は、駭いて眠に入ろうとした。が、その夜の烈しい経験は、――彼女が生れて以来初めて出会ったような複雑な、烈しい出来事は、彼女の神経を、極度に掻き擾していた。彼女が、いくら眠ろうとあせっても、意識は冴え返って、先刻の恐ろしい情景が、頭の中で幾度も幾度も、繰り返された。青年の凄いほど、緊張した顔が、彼女の頭の中を、巴のように馳け廻った。
眠ろう眠ろうとあせればあせるほど、神経が益々いらだって来た。記憶が、異常に興奮して、自分の生い立ちや、母の死や父の死や、兄の事などが、頭の中に次ぎ次ぎに思い浮んで来た。
その裡に一時が鳴った。
瑠璃子も、寝台の中で、暫らくの間は、眠り悩んでいたようだったが、その裡に、おだやかな鼾の声が聞え初めた。
母が、眠に就いたのを知ると、美奈子は益々あせっていた。口の中で、数を算えて見たり、深呼吸をして気持を落ち着けようと試みたりした。