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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

」

「いゝえ! わたし、覚悟していますの。美奈さんには、すみませんわね。」

そう云った母の顔は、苦痛のために、ピク/\と痙攣した。

美奈子は、わあっ! と泣き出さずにはいられなかった。

「それで、わたし貴女に、お願いがあるの。あの、電報を打つときに、神戸へも打っていたゞきたいの!」

瑠璃子は、恐ろしい苦痛に堪えながら、途切れ/\に話しつゞけた。

「神戸! 神戸って、何方にです?」

美奈子は、怪しみながら訊いた。

「あの、あの。」瑠璃子は苦痛のために、云い澱んだようだったが、「あの、杉野直也です。わたし、新聞で見たのです。月初に、ボルネオから帰って、神戸の南洋貿易会社にいる筈です。死ぬ前に一度逢えればと思うのです。」

瑠璃子は、やっと喘ぎながら云い終ると、精根が全く尽きたように、ガクリとくずおれてしまった。

二年の間、恋人のことを忘れはてたように見せながらも、真は心の底深く思い続けていたのであろう。恋人の消息を、外ながら、貪り求めていたのであろう。

医者が、来たのは夏の夜が、はや白々とあけ初める頃であった。

一時間近くもかゝったために、瑠璃子は、多量の出血のために、昏々として人事不省の裡にあった。