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しんじゅふじん

真珠夫人

菊池 寛

「大阪毎日新聞」、「東京日々新聞」1920(大正9年)6月9日~12月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 289,296 字 · 578 页

青空文庫

「主人公が、こんな所に、逃げ込んでいては困りますね。さあ、彼方へ行きましょう。先刻も我党の総裁が、貴方を探していた。まだ挨拶をしていないと云って。」

沢田は、勝平をグン/\麓の方へ、園遊会の賑いと混雑の方へ引きずり込もうとした。

「いや、もう少しこの儘にして置いて下さい。今日一時から、門の処で一時間半も立ち続けていた上に、先刻三鞭酒を、六七杯も重ねたものだから。もう暫らく捨てゝ置いて下さい。直ぐ行きますよ、後から直ぐ。」

そう云って、捕えられていた腕を、スラリと抜くと、沢田はその機みで、一間ばかりひょろひょろと下へ滑って行ったが、其処で一寸踏み止まると、

「それじゃ後ほど。」と云ったまゝ空になった杯を、右の手で振り廻すようにしながら、ふら/\丘の麓にある模擬店の方へ行ってしまった。

園内の数ヶ所で始まっている余興は、それ/″\に来会した人々を、分け取りにしているのだろう。勝平の立っている此の広い丘の上にも五六人の人影しか、残っていなかった。勝平に付き纏っていた芸妓達も、先刻踊りが始まる拍子木が鳴ると、皆その方へ馳け出してしまった。

が、勝平は四辺に人のいないのが、結局気楽だった。