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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
その葉の色づいたのはアカシヤの若木であった。枯草を満載した軍用の貨物列車、戦地の方の兵士等が飲料に宛てるらしい葡萄酒の樽を積んだ貨物列車も、幾台となく擦違って窓の外を通った。
オート・ヴィエンヌから隣州のドルドオニュへ越え、コキイユという小さな田舎らしい停車場を過ぎて、南へ行く旅客はペリギュウで乗換えた。ポオプイエの附近を乗って行く頃から、車窓の外に見える地味も変り、人家も多くなり、青々とした野菜畠すら望まれるように成ったばかりでなく、車中の客の風俗からして変った。それらの人達の話し合う言葉の訛や調子を聞いたばかりでも岸本は次第に西南の仏蘭西に入って行く思いをした。ジロンド州の地方を通過ぎて、暗くなってガロンヌ河を渡った。平時ならば六七時間で来られそうな路程に十一時間も要った。彼は汽車の窓を通して暗い空に映る無数の燈火を望んだ。そこが仏蘭西政府と共に日本の大使館までも移って来ているボルドオであった。
これ程楽みにしてやって来れば、それだけでも沢山だ、とは岸本が自分で自分に言って見たことであった。彼には南方の仏蘭西を想像して来た楽みがあり、そこまで動いたという楽みがあった――仮令ボルドオで彼を待受けていてくれたものは二日とも降り続いた雨ではあったが。