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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

もし義勇兵に加わっても知らない人の中へ行こうとするほどの心を有つならば、無理にも行く道が無いではなかった。けれども岸本はこれ以上深入して、国の方に残して置いて来た子供等を苦めるには忍びなかった。そこまで行って、漸く彼には帰国の決心がついた。

義雄兄からはなるべく早く帰って来てくれとした手紙が来るように成った。岸本は兄に宛ててこの決心を書送った。ともかくも来る十月の頃まで待ってくれ、それまでには帰国の準備をしたいと思うし、二度と出掛けて来るような機会が有ろうとは一寸思われないから、出来るだけこの旅を役に立てたいと思うと書送った。

「岸本さん、スエズを経由して日本の方へ帰ります」

短い言葉に無量の思いを籠めた絵葉書が千村教授の許から届いた。それを手にして見ると、岸本は旅の空で懇意になったあの千村の声を親しく聞く気がした。千村は郵船会社の船で倫敦から帰東の旅に上る時にその便りをくれたのであった。亜米利加廻りで帰りたいという便りのあった高瀬の出発も最早遠くはあるまいと思われた。

岸本は部屋の窓へ行って、千村が泊っていた旅館を望んだ。窓の外にあるプラタアヌの並木はまだまだ冬枯そのままであった。