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しんせい
新生
島崎 藤村
「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页
しかし岸本はもっと広い自由な世界をめがけて脇目もふらずに急ごうとした。仮令親戚から離れ、人から爪弾きせられ、全く自分一人に生きなければ成らないような時が来ようとも、彼としてはそれも已むを得なかった。七月に入る頃までには、彼は海の外へ逃れようとした旅の動機から、暗夜に神戸の港を離れて行く外国船の中の客となったまでの事実を世間に発表した。過ぐる年月の間の最も心の暗かった時のことが、一日々々と曝露されて行った。長いこと彼の身に附纏った秘密の影、葬ろう葬ろうとして到底葬り得なかった過去の罪過――彼はそれらの暗いものと共に倒れて行く自己を見るような傷ましい心持に満たされた。
節子が愛宕下へ通って来る道も最早絶え果てた。岸本は彼女への月々の仕送りも見合せ、手紙を書くことも見合せ、ただただ引籠り勝ちに謹慎の意をあらわしていた。でも節子の方からはよく手紙をよこした。彼女は折々の消息を岸本に伝えることを怠らなかった。この間父に宛てて書いたものを姉が来た時に読んで貰ったと彼女は書いてよこした。その時も二階から聞える父の大きな声が自分をハラハラさせるほどであったが、結局姉を通して、「今に俺が考えて置く」