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しんせい

新生

島崎 藤村

「東京朝日新聞」1918(大正7)年5月1日~10月5日、1919(大正8)年8月5日~10月24日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 334,815 字 · 663 页

青空文庫

岸本はその足で梯子段を下りた。子供の部屋と食堂の間を通って縁側から庭へ下りた。そこには草花を植えるぐらいの僅かな空地があった。節子の残して置いて行った秋海棠の根が塀の側に埋めてあった。

「遠き門出の記念として君が御手にまいらす。朝夕培いしこの草に憩う思いを汲ませたもうや」

この節子の書き残した言葉が岸本の気に成った。引越早々の混雑の中で、彼は四つの根を庭に埋めて置いたが、その埋め方の不確実なのが気に成った。何となくその根のつくと、つかないとが、これから先の二人の生命に関係でもあるかのように思われて成らなかった。試みに掘出して見ると、毛髪でも生えたように気味の悪い秋海棠の黒ずんだ根が四つとも土の中から転がって出て来た。

「父さん、どうするの」と学校から早びけで帰って来た繁が訊いた。

「ああそうだ、お節ちゃんが置いて行ったんだね」と泉太も庭へ下りて来て言った。

「やあ。僕も手伝おうや」

こういう子供を相手に、岸本はその根を深く埋め直して、やがてやって来る霜にもいたまないようにした。節子はもう岸本の内部に居るばかりでなく、庭の土の中にもいた。